電話の日本語は、なぜ難しく感じるのか

静かなオフィスで作業をしているとき、デスクの電話が鳴ります。
相手の顔は見えません。こちらに伝わるのは、声と最初の数秒の応対だけです。

メールのように書き直すことはできません。対面のように表情で補うこともできません。だから電話では、言葉づかいだけでなく、相手との距離の取り方が出やすくなります。

1. うまくいかない例

電話に出て、
「もしもし、(会社名)の(自分の名前)です」
と言う。

取次ぎでは、
「ちょっと待ってください。担当者を呼びます」
と返す。

終わるときは、
「はい、さようなら」
で切る。

どれも意味は通じます。けれど、ビジネスの電話として聞くと、友人との通話に近く聞こえます。違和感の原因は、敬語が足りないことだけではありません。電話という場面に必要な「距離」と「立場」が、言葉に十分出ていないのです。

2. なぜ不自然に聞こえるのか

電話応対が不自然に聞こえやすい理由は、主に4つあります。

距離

電話では、相手の表情も反応も見えません。対面より情報が少なく、少し遠い距離でやり取りすることになります。対面なら表情でやわらげられることも、電話では声と言葉で補わなければなりません。普段と同じ感覚で話すと、相手には近すぎる、軽すぎる印象を与えてしまいます。

立場

電話に出た瞬間、その人は個人ではなく「会社の窓口」です。ここで必要なのは、難しい敬語ではありません。社外の相手に対して、「今は会社の立場で話している」と伝わる言い方に切り替えることです。「いません」ではなく「席を外しております」と言うのは、そのためです。

目的

電話の目的は、必要な情報を正確に、気持ちよくつなぐことです。早く済ませようとして言葉を削りすぎると、応対としては粗く聞こえます。名乗る、確認する、取り次ぐ、という流れそのものが、相手への安心につながります。

言い方の強さ

同じ内容でも、言い方の強さで印象が変わります。

  • 「ちょっと待ってください」
  • 「少々お待ちください」
  • 「確認いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか」

内容が同じでも、待たせる時間や場面に合わせて、適した言い方を選ぶ感覚が必要です。

3. 場面ごとの言い方を見る前に

電話では、表現だけを覚えても十分ではありません。
相手との距離、自分の立場、その場の目的を見ることで、言い方を選びやすくなります。

4. 場面ごとの言い方

場面ごとに見ると、判断しやすくなります。

① 最初の一言

電話に出るときは、
「もしもし」ではなく、
「お電話ありがとうございます。(会社名)でございます」
とします。

感謝と所属を先に示すことで、電話らしい距離の取り方になります。

② 待たせる場面

相手を待たせるときは、
「ちょっと待ってください」ではなく、
「少々お待ちください」
とします。

より配慮を伝えるなら、
「確認いたしますので、少々お待ちいただけますでしょうか」
とします。

③ 不在を伝える場面

担当者がいないときは、
「いません」ではなく、
「ただ今、席を外しております」
とすると自然です。

④ 電話の終わり方

電話を終えるときは、
「はい、さようなら」ではなく、
「お電話ありがとうございました。失礼いたします」
と一言添えるだけで、全体の印象が整います。

5. まとめ

電話応対では、敬語を増やすことだけでは十分ではありません。
見えない相手との距離を言葉で整えることが大切です。

相手との距離、自分の立場、その場で必要な言い方を考えると、電話の表現は安定しやすくなります。

門永 美保

ビジネス日本語講師

日本語教師養成講座420時間修了。2015年4月から現在まで、京都府内大学の留学生を対象としたビジネス日本語の講義で非常勤講師を務めています。

2023年からは日系企業に就職したい・就業している世界中の人へ向けたビジネス日本語のオンラインレッスンを展開。

留学生の就職支援業務の経験もあり、ビジネスマナーも含めたアドバイスを行えます。

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