チャット・メールで、意図した伝わり方にならないのはなぜか

プロジェクトの進捗確認をチャットで送ったのに、相手からは「承知いたしました」とだけ返信が来て、その後の動きが見えないことがあります。

また、ていねいに書いたつもりのメールが、相手には「冷たい」「怒っている」と受け取られてしまうこともあります。

対面なら、表情や声の調子、その場の空気で伝わることがあります。しかし、チャットやメールでは、それらがほとんど使えません。

文字だけでやり取りする場面では、少しの言い方の違いが、そのまま受け取られ方の違いとして表れます。

1 ビジネス場面提示

たとえば、上司や取引先に進捗確認や依頼を送る場面を考えてみましょう。内容自体は間違っていなくても、書き方によっては、相手に意図した通りに伝わらないことがあります。

チャットやメールでは、内容だけでなく、どのような言い方で伝えるかも重要です。特にビジネスのやり取りでは、表現の選び方が相手の受け取り方に影響します。

2 うまくいかない例

たとえば、急いで状況を伝えようとして、次のような表現を使っていないでしょうか。

「資料、送りました。見ておいてください」
「明日の会議、行けなくなりました」
「この修正、すぐできますか?」

文法として大きく誤っているわけではありません。しかし、ビジネスの場面では「配慮が足りない」「少し一方的だ」と受け取られることがあります。

3 なぜそのような受け取られ方になるのか

正しい日本語を書いているはずなのに、なぜ相手との間で行き違いが起こるのでしょうか。そこには、チャット・メールに特有の特徴があります。

距離

対面では、相手の表情や忙しさ、その場の空気を見ながら言い方を調整できます。しかし、チャットやメールでは、相手が今どんな状況にいるのかが見えません。

そのため、自分の感覚だけで「すぐ見てほしい」「すぐ返事がほしい」という気持ちをそのまま出すと、相手には近すぎる、強すぎる印象になることがあります。文字のやり取りでは、言葉そのものが距離感になります。

立場

同じ内容でも、同僚に送るのか、上司に送るのか、取引先に送るのかで、選ぶ表現は変わります。ビジネスの日本語では、立場の違いを考えないまま送ると、「配慮が足りない」と受け取られやすくなります。

たとえば「見ておいてください」は、内容としては依頼ですが、言い方はかなり直接的です。自分では軽い確認のつもりでも、相手には指示のように聞こえることがあります。

目的

「送りました」は事実の共有です。しかし、仕事のやり取りでは、多くの場合、その先に目的があります。確認してほしいのか、意見がほしいのか、承認がほしいのかです。

そこがはっきりしないままだと、相手はどう動けばいいのか分かりません。情報を送るだけでは足りず、相手に何をしてほしいのかまで見える必要があります。目的が見えない文は、やわらかい表現でも、結果として不親切になりやすいです。

強さ

チャットやメールでは、依頼・確認・催促の強さが、そのまま文字に残ります。対面ならやわらかく聞こえる言い方でも、文字だけになると強く見えることがあります。

見てください
ご確認ください
ご確認いただけますか
お手すきの際にご確認いただけますと幸いです

これらはすべて「確認してほしい」という意味です。しかし、強さと距離感は同じではありません。ビジネスのやり取りでは、この強さの調整が重要です。

4 言い方を少し変えると

大事なのは、いつも一番ていねいに書くことではありません。距離・立場・目的に合わせて、強さを調整することです。

相手の状況にふれながら伝える

△「この修正、すぐできますか?」
◎「恐れ入りますが、こちらの修正について本日中のご対応は可能でしょうか。」

「すぐできますか?」は、急ぎたい気持ちがそのまま出ています。改善後の表現は、相手の都合に触れながら依頼の形にしています。言い方を少しやわらげるだけで、印象は変わります。

何をしてほしいかをはっきりさせる

△「資料、送りました。見ておいてください」
◎「会議用の資料をお送りします。週明けまでにご確認いただけますと幸いです。」

後者は、相手が次に取る行動が分かるので、目的が伝わりやすくなります。

事情とその後の対応を添える

△「明日の会議、行けなくなりました」
◎「誠に申し訳ございませんが、急ぎの案件対応のため、明日の会議は欠席させていただきます。後ほど議事録にて内容を確認いたします。」

欠席の理由と、その後の対応を添えることで、立場への配慮と責任感が伝わります。

少しやわらかい言い方にする

△「確認してください」
◎「ご確認いただけますでしょうか」
◎「お手すきの際にご確認いただけますと幸いです」

依頼の内容が同じでも、表現を一段調整するだけで、相手が受ける圧力は変わります。

5 まとめ

チャットやメールで、意図したとおりに伝わらないことがあるのは、言葉が足りないからではありません。距離・立場・目的・強さを、文字だけで調整しなければならないからです。

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門永 美保

ビジネス日本語講師

日本語教師養成講座420時間修了。2015年4月から現在まで、京都府内大学の留学生を対象としたビジネス日本語の講義で非常勤講師を務めています。

2023年からは日系企業に就職したい・就業している世界中の人へ向けたビジネス日本語のオンラインレッスンを展開。

留学生の就職支援業務の経験もあり、ビジネスマナーも含めたアドバイスを行えます。

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