前回は、日本で働くために、日本語力がどのように関わるのかを考えました。
日本語力は、就職活動のためだけに必要なものではありません。
仕事の内容を理解すること。
相手の話を聞いて、必要なことを確認すること。
自分の考えや専門性を、相手に伝わる形で説明すること。
こうした場面で、日本語は少しずつ必要になります。
では、今の日本語力を、どうすれば「仕事で使えるレベル」に近づけていけるのでしょうか。
大切なのは、いきなり完璧な日本語を目指すことではありません。
自分に必要な場面を知り、目標を決め、実際に使う経験を重ねていくことです。
1. まずは、今の力と目標を整理する
日本語を伸ばしたいと思ったとき、最初に考えたいのは「何をどこまでできるようになりたいのか」です。
たとえば、就職活動を考えているなら、次のような場面があります。
- 自己紹介をする
- 志望動機を説明する
- 自分の研究や専門をわかりやすく伝える
- 面接で質問を聞き取り、答える
- メールで連絡や確認をする
このように、実際に日本語を使う場面を思い浮かべると、必要な力が少し見えやすくなります。
JLPTを目標にすることも、一つの方法です。
たとえば、N3からN2へというように段階を決めると、学習の目安をつくりやすくなります。
ただし、試験のレベルと、仕事で使う日本語はまったく同じではありません。
試験に向けた学習は、語彙や文法、読解力を伸ばすうえで役に立ちます。
けれども、仕事ではそれに加えて、相手の意図を理解したり、
自分の考えを場面に合わせて伝えたりする力も必要になります。
そのため、試験の目標を持ちながらも、「実際に使う場面」を意識して学ぶことが大切です。
2. 実際に使う日本語に慣れる
日本語を仕事で使えるようにするには、知識を増やすだけでなく、実際に使う練習が必要です。
教科書で覚えた表現も、実際の会話やメールの中で使ってみると、
思ったより難しく感じることがあります。
反対に、何度か使っているうちに、自然に出てくる表現も増えていきます。
たとえば、会話練習では、長く話すことよりも、 まずは短くても伝えることを意識するとよいでしょう。
「もう一度お願いします」
「つまり、〇〇ということでしょうか」
「少し確認してもよろしいですか」
このような確認の表現は、仕事の場面でも役に立ちます。
わからないことをそのままにせず、相手に確認できることは、大切なコミュニケーション力です。
日本語で話す機会を増やすことも大切です。
ただし、目的は「たくさん話すこと」だけではありません。
自分の考えを、相手に伝わる形で言えるようになることです。
仕事で使う日本語を育てるには、日常会話だけでなく、
少し改まった表現にも慣れておく必要があります。
たとえば、依頼する、確認する、断る、相談する、報告する。
こうした場面では、言い方によって相手に与える印象が変わることがあります。
敬語やビジネスメールの表現を学ぶことも大切ですが、
表現を丸暗記するだけでは十分ではありません。
誰に、何を、どのような関係で伝えるのか。
その場面に合わせて言葉を選ぶことが、仕事で使う日本語につながっていきます。
3. 就職活動の準備を、日本語学習として使う
就職活動の準備は、日本語力を育てる機会にもなります。
履歴書やエントリーシートを書くときには、自分の経験や考えを整理する必要があります。
面接練習では、質問を聞き取り、自分の言葉で答える練習ができます。
これは単なる就活対策ではありません。
自分の専門、経験、強み、これからしたいことを日本語で説明する練習でもあります。
特に留学生の場合、自分の専門性を日本語で説明する力は大切です。
専門的な内容を、専門外の人にも伝わるように話す場面があるからです。
難しい言葉をたくさん使うことが、よい説明とは限りません。
相手が理解しやすい順番で話すこと。
必要な言葉を補いながら説明すること。
質問されたときに、短く答え直せること。
こうした練習は、面接だけでなく、入社後の仕事にもつながります。
大学のキャリアセンターや就活支援団体などに相談することも、一つの方法です。
一人で考えていると、自分の日本語のどこが伝わりにくいのか気づきにくいことがあります。
誰かに聞いてもらうことで、言い方や説明の順番を見直しやすくなります。
4. 「使って終わり」にせず、言い方を見直す
仕事で使う日本語は、一度覚えた表現をそのまま使えばよい、というものではありません。
同じ内容でも、相手との関係や場面によって、伝わり方が変わることがあります。
丁寧に言ったつもりでも、少し遠回しすぎて要点が伝わりにくいこともあります。
反対に、はっきり言ったつもりの表現が、相手には強く聞こえることもあります。
だからこそ、日本語を使ったあとに、少しだけ振り返ることが大切です。
「この言い方で伝わったか」
「もう少し短く言えたか」
「相手に確認しやすい言い方だったか」
「次に同じ場面があったら、どう言えばよいか」
こうした見直しを重ねることで、表現は少しずつ自分のものになっていきます。
仕事で必要なのは、いつも完璧な日本語を使うことではありません。
伝わりにくかったときに言い換えること。
誤解がありそうなときに確認すること。
場面に合わせて、少しずつ言葉を調整していくこと。
その積み重ねが、「仕事で使える日本語」につながっていきます。
5. 日本語は、専門性を伝える力になる
日本語を学ぶ目的は、日本語そのものを上手に見せることだけではありません。
自分が学んできたこと。
経験してきたこと。
できること。
これから働く中で生かしたいこと。
それを相手に伝えるために、日本語があります。
留学生には、それぞれの専門性や経験があります。
けれども、その力が相手に伝わらなければ、十分に理解されないこともあります。
だからこそ、日本語は「自分を説明する力」として育てていくことができます。
専門性に加えて、伝える力が育つと、就職活動でも、職場でのやりとりでも、
自分の可能性を相手に届けやすくなります。
日本語は、一朝一夕で身につくものではありません。
けれども、目標を決め、実際に使い、言い方を見直していけば、
少しずつ「仕事で使える日本語」に近づいていきます。
大切なのは、完璧な日本語を待ってから動き出すことではありません。
今できる日本語を使いながら、必要な表現を少しずつ増やしていくことです。
日本語力は、不安の原因になることもあります。
でも同時に、自分の専門性や考えを社会につなげる力にもなります。
その力は、今から育てていくことができます。
ご自身の専門性に加えて「伝える力」が育てば、新しい扉がきっと開けていきます。

