温泉のパンフレットから始めるー上司と「ちょっとした雑談」をする日本語フレーズ

1.今回のテーマ

日本の職場で働いていると、「上司と何を話したらいいのか分からない」と感じる場面があるかもしれません。
自分の職場の場面を思い浮かべながら、「この言い方なら使えそう」と思う表現を一つでも見つけていただければうれしいです。

今回のテーマ「雑談」です。
特に、趣味・勉強・生活習慣など、少しパーソナルだけれど、ビジネスの場でも話しやすい話題を取り上げます。

2.会話モデル:温泉のパンフレットから始める、上司との軽い雑談

■ 場面設定

  • 登場人物:
    • 佐藤部長(上司)
    • アンさん(外国人社員・元留学生)
  • 場所:オフィス。昼休みが終わる少し前。
  • きっかけ:佐藤部長の机の上に、温泉旅行のパンフレットが置いてある。

■ 会話モデル(佐藤部長 × アンさん)

アン:
佐藤部長、お疲れさまです。
先ほど、机の上のこちらのパンフレット、少しだけ見えたのですが、旅行のパンフレットでしょうか。

佐藤部長:
ああ、これですか。そうなんですよ。今度の休みに、家族でどこか温泉に行けたらいいなと思って、見ていたところです。

アン:
いいですね。日本の温泉旅行、私も一度行ってみたいです。
このパンフレットは、どのあたりの温泉なんですか。

佐藤部長:
これは◯◯県の温泉ですね。京都からも行きやすくて、料理もおいしいと聞きました。

アン:
そうなんですね。京都以外の場所には、あまり行ったことがないので、興味があります。
佐藤部長のおすすめの場所があれば、いつか教えていただきたいです。

佐藤部長:
そうですね。アンさんが旅行に行くときは、ぜひ相談してください。
外国の方にとっておもしろそうな場所を、一緒に考えましょう。

アン:
ありがとうございます。とてもうれしいです。
では、そろそろ席に戻ります。午後もよろしくお願いします。

佐藤部長:
はい、お願いします。

3.解説①:まずは「たまたま見えた」ことをクッションにする

アンさんは、いきなり「それ何ですか?」とは聞いていません。

「先ほど、机の上のこちらのパンフレット、少しだけ見えたのですが、旅行のパンフレットでしょうか。」

という形で、

  • 「先ほど」「少しだけ見えた」という言葉を入れて、
    たまたま目に入ったというニュアンスを出している
  • 「〜でしょうか」と、推量+丁寧な聞き方にしている

のがポイントです。

同じパターンは、他のものにも応用できます。

  • 「さきほど、机の上の◯◯、少し拝見したのですが…」
  • 「さきほど、◯◯のポスターが目に入ったのですが…」

など、「たまたま見えた → ちょっと気になった → 少し聞いてもいいか」の流れを作ると、自然で丁寧な印象になります。

4.解説②:旅行の話は「場所」と「経験」で広げやすい

温泉旅行のパンフレットは、雑談の話題としてとても便利です。

この会話では、

  1. パンフレットの内容を確認する
    • 「このパンフレットは、どのあたりの温泉なんですか。」
  2. 上司が場所や特徴を説明する
    • 「京都からも行きやすくて、料理もおいしい」など
  3. 自分の経験や興味につなげる
    • 「京都以外の場所には、あまり行ったことがないので、興味があります。」

という流れになっています。

旅行の話は、

  • 地名(◯◯県、◯◯温泉など)
  • アクセス(行きやすい/遠い)
  • 食べ物(料理がおいしい)

といった客観的な情報が多く、深いプライベートの話になりにくいのがメリットです。
「行ったことがある場所」と「行ってみたい場所」のどちらからでも話せるので、外国人社員にとっても会話を続けやすいテーマです。

5.解説③:質問だけで終わらせず、自分のことも少し話す

雑談が一方通行にならないためには、質問+自分の話のバランスが大切です。

アンさんは、パンフレットのことを質問したあとで、こう言っています。

「日本の温泉旅行、私も一度行ってみたいです。」
「京都以外の場所には、あまり行ったことがないので、興味があります。」

このように、

  • 相手の話を聞く
  • 関連する自分の経験・興味を一言そえる

という流れを意識すると、上司も返事がしやすくなります。

応用しやすいフレーズとしては、例えば次のようなものがあります。

  • 「◯◯には、まだ行ったことがないので、一度行ってみたいと思っています。」
  • 「温泉はテレビで見たことしかないので、実際に行ってみたいです。」
  • 「静かなところでゆっくり過ごすのが好きなので、興味があります。」

6.解説④:聞きすぎないラインも知っておく

旅行の話は安全なテーマですが、質問の内容によっては、少し踏み込みすぎになることもあります。

例えば、次のような質問は、タイミングや関係性によっては注意が必要です。

  • 「ご家族は何人ですか。」
  • 「お子さんは何歳ですか。」
  • 「どれくらいお金がかかりそうですか。」

まずは、

  • 「どのあたりの温泉なんですか。」(場所)
  • 「有名な料理はありますか。」(食べ物)
  • 「おすすめの時期はありますか。」(季節)

など、旅行そのものに関する一般的な質問から始めると安心です。

7.解説⑤:短く終わらせる一言も準備しておく

雑談は、長く続けるよりも、短く終わらせたほうが仕事のじゃまにならない場合もあります。

会話の最後で、アンさんはこうしめています。

「では、そろそろ席に戻ります。午後もよろしくお願いします。」

このような「しめの一言」をいくつか準備しておくと、安心して雑談を始めることができます。

例:

  • 「お話を聞かせていただき、ありがとうございました。そろそろ席に戻ります。」
  • 「教えていただいて、ありがとうございました。午後もよろしくお願いします。」
  • 「またおすすめの場所があったら、ぜひ教えてください。それでは失礼します。」

始め方(きっかけ)と終わり方(しめ)が決まっていると、雑談のハードルはぐっと下がります。

8.ミニ練習:自分ならどう話すか、2文だけ考えてみる

最後に、実際に使えるようにするための小さな練習を一つ紹介します。

  1. 「上司の机の上に、温泉のパンフレットがある」と想像する。
  2. 次の2つの文を、自分の言葉で考えてみる。
    • パンフレットに気づいたときの一言
      例:「さきほど、机の上のパンフレットが目に入ったのですが、温泉旅行のパンフレットでしょうか。」
    • 自分の旅行に関する一言
      例:「日本の温泉には、まだ行ったことがないので、一度行ってみたいと思っています。」

この2文があれば、今日の会話モデルのような雑談を、自分の職場でも少しアレンジして使うことができます。

9.おわりに

上司との会話は、最初から完璧である必要はありません。
この記事の会話モデルの中から、まずは一つだけ表現を選んで、自分の言葉に近づけてみてください。少しずつ「話しやすい距離」を作っていければ十分です。

門永 美保

ビジネス日本語講師

日本語教師養成講座420時間修了。2015年4月から現在まで、京都府内大学の留学生を対象としたビジネス日本語の講義で非常勤講師を務めています。

2023年からは日系企業に就職したい・就業している世界中の人へ向けたビジネス日本語のオンラインレッスンを展開。

留学生の就職支援業務の経験もあり、ビジネスマナーも含めたアドバイスを行えます。

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