「今からでも大丈夫ですか」と聞く前に考えたいこと

留学生の就職活動と、自分で選ぶ力

日本で就職活動をしている留学生から、よく聞かれる言葉があります。

「今からでも大丈夫ですか」

この質問には、いろいろな意味が含まれています。

就職活動を始める時期が遅かった。
応募できる企業がまだあるか不安。
何から始めればよいかわからない。
自分の準備が足りているのか心配。

そうした不安から、この言葉が出てくることがあります。

もちろん、状況を確認することは大切です。
今からできることを整理する必要もあります。

ただ、この質問をするときに、少し考えてほしいことがあります。

それは、誰かに「大丈夫です」と言ってもらうことだけを求めていないか、ということです。

「大丈夫ですか」の中にある不安

「今からでも大丈夫ですか」と聞くとき、多くの場合、知りたいのは情報だけではありません。

応募できる企業があるか。
準備は間に合うか。
今から内定を得られる可能性があるか。

そうした情報を知りたい気持ちもあります。

けれども、その奥には、安心したい気持ちもあります。

「まだ間に合います」と言ってほしい。
「大丈夫です」と言ってほしい。
「何とかなる」と言ってほしい。

不安なときに、誰かの言葉で安心したくなるのは自然なことです。

ただ、就職活動では、誰かが「大丈夫です」と言ってくれたとしても、それだけで状況が変わるわけではありません。

大切なのは、今の自分の状況を見て、何ができるかを考えることです。

答えをもらうことと、自分で決めることは違う

就職活動では、相談することは大切です。

一人で考えていると、視野が狭くなることがあります。
応募書類の書き方がわからないこともあります。
面接で何を伝えればよいか迷うこともあります。

そのようなときに、誰かに相談することは必要です。

ただし、相談することと、誰かに決めてもらうことは違います。

どの企業を受けるのか。
どの仕事を選ぶのか。
内定を受けるのか。
別の道を考えるのか。

これらは、最終的には自分で考える必要があります。

支援者は、情報を整理することはできます。
選択肢を一緒に考えることもできます。
応募書類や面接で、自分の考えが伝わるように支えることもできます。

しかし、本人の人生を代わりに決めることはできません。

就職活動では、「どうすればよいですか」と聞くだけでなく、
「私はこう考えていますが、どう見えますか」と聞けるようになることが大切です。

自分で選ぶためには、判断基準が必要になる

自分で選ぶと言っても、簡単なことではありません。

特に、日本で初めて就職活動をする留学生にとっては、わからないことが多いです。

日本の就職活動の流れ。
企業の採用の考え方。
面接で求められる答え方。
仕事の内容や働き方。
自分の専門や経験をどう伝えるか。

これらを一度に理解するのは難しいです。

だからこそ、最初から完璧な答えを出す必要はありません。

ただ、自分なりの判断基準を少しずつ持つことは必要です。

自分は何を大切にしたいのか。
どのような仕事に関心があるのか。
どのような働き方なら続けられそうか。
日本で働くことに、どのような意味を感じているのか。

こうしたことを考えることで、選択の軸が少しずつ見えてきます。

判断基準がないまま就職活動をすると、周りの言葉に大きく影響されます。

有名な企業だから応募する。
友人が受けているから自分も受ける。
誰かに勧められたから決める。
内定が出たから、深く考えずに受ける。

もちろん、きっかけとしては悪くありません。

しかし、それだけでは、自分が納得できる選択になりにくいことがあります。

「正解」を探しすぎない

就職活動では、正解を探したくなることがあります。

どの業界がよいのか。
どの会社を選ぶべきか。
面接では何を言えばよいのか。
どの答えなら評価されるのか。

確かに、知っておいた方がよいことはあります。
面接での伝え方や、応募書類の書き方には、一定の型もあります。

しかし、就職活動のすべてに一つの正解があるわけではありません。

同じ経験でも、どのように伝えるかによって印象は変わります。
同じ企業でも、人によって合う場合と合わない場合があります。
同じ内定でも、その人にとって納得できる選択かどうかは違います。

大切なのは、「正解を教えてもらうこと」ではありません。

自分の考えを整理し、なぜそう考えるのかを説明できるようにすることです。

「この会社がよいと言われたから」ではなく、
「私はこの点を大切にしているので、この会社に関心があります」と言えること。

「何を言えば受かりますか」ではなく、
「自分の経験を、この仕事とどうつなげて伝えるか」を考えること。

このような姿勢が、自分で選ぶ力につながります。

日本語で考えを伝える力も必要になる

留学生の就職活動では、自分で選ぶ力と同時に、日本語で伝える力も必要になります。

これは、難しい言葉を使うという意味ではありません。
完璧な敬語を使うという意味でもありません。

自分の考えを、相手に伝わる順番で話すこと。
理由を添えて説明すること。
経験と希望をつなげて伝えること。
相手の質問に合わせて答えを調整すること。

こうした力です。

たとえば、「日本で働きたいです」と言うだけでは、理由が十分に伝わらないことがあります。

なぜ日本で働きたいのか。
日本でどのような経験を積みたいのか。
自分の専門や経験を、どのように仕事に生かしたいのか。

そこまで言葉にして、初めて相手に伝わりやすくなります。

また、「何でも頑張ります」という表現も、意欲は伝わります。

しかし、それだけでは自分の方向性が見えにくい場合があります。

自分は何に関心があるのか。
どのような場面で力を出せるのか。
何を学びながら働きたいのか。

これを具体的に伝えることで、相手もその人を理解しやすくなります。

就職活動の日本語は、言葉の正しさだけではありません。

自分の考えを整理し、相手に届く形にする力です。

相談は、自分で選ぶために使う

就職活動で相談することは、悪いことではありません。
むしろ、必要なことです。

ただし、相談の使い方が大切です。

答えをもらうためだけに相談するのではなく、自分の考えを整理するために相談する。

決めてもらうためではなく、選択肢を見えるようにするために相談する。

安心するためだけではなく、次の行動を決めるために相談する。

このように考えると、相談の意味が変わります。

「今からでも大丈夫ですか」と聞く前に、次のように考えてみることもできます。

今、自分はどこまで準備できているのか。
何が不安なのか。
何を知りたいのか。
何をまだ決められていないのか。
次に自分ができる行動は何か。

ここまで整理してから相談すると、受け取れる助言も変わります。

相談する側が自分の状況を言葉にできるほど、支援する側も具体的に考えやすくなります。

自分で選ぶ力は、働き始めてからも必要になる

就職活動で自分で選ぶ力は、内定を得るためだけに必要なものではありません。

働き始めてからも、同じ力が必要になります。

仕事で迷うことがあります。
上司や先輩の言うことが、自分の考えと違うこともあります。
希望していた仕事と、最初に任される仕事が違うこともあります。
自分のキャリアをどう考えるか、迷うこともあります。

そのときに、すぐに「これは正しいですか」「どうすればよいですか」と答えを求めるだけでは、前に進みにくいことがあります。

もちろん、確認や相談は必要です。

ただ、その前に、自分はどう考えているのかを整理することが大切です。

就職活動は、その練習の場でもあります。

自分の考えを持つ。
相手の話を聞く。
助言を受け取る。
そのうえで、自分の行動を選ぶ。

この経験は、日本で働き始めてからのコミュニケーションにもつながります。

「大丈夫ですか」の先にあるもの

「今からでも大丈夫ですか」と聞きたくなるとき、不安があるのは当然です。

就職活動は、わからないことが多いです。
思うように進まないこともあります。
周りと比べて、焦ることもあります。

でも、その質問の先で考えたいことがあります。

大丈夫かどうかを、誰かに決めてもらうだけでよいのか。
それとも、今の状況から自分ができることを整理するのか。

就職活動で必要なのは、完璧な準備だけではありません。
最初から正解を知っていることでもありません。

自分の状況を見て、考えること。
必要な情報を集めること。
相談しながら、自分で選ぶこと。
選んだ理由を、自分の言葉で説明できるようにすること。

この積み重ねが、就職活動を自分のものにしていきます。

「今からでも大丈夫ですか」と聞くこと自体が悪いわけではありません。

ただ、その言葉で終わらせず、
「では、今の自分は何から始めるのか」
「何を基準に選ぶのか」
「どう伝えれば、自分の考えが相手に届くのか」
そこまで考えていくことが大切です。

留学生の就職活動では、自分で選ぶ力が必要です。

そして、その選択を日本語で伝える力も必要です。

それは、内定のためだけではありません。

日本で働き始めてから、自分の考えを持ち、相手とやり取りしながら進んでいくための力でもあります。

※この記事は、過去に公開した留学生の就職活動に関するコラムをもとに、現在の方針に合わせて再構成したものです。

門永 美保

ビジネス日本語講師

日本語教師養成講座420時間修了。2015年4月から現在まで、京都府内大学の留学生を対象としたビジネス日本語の講義で非常勤講師を務めています。

2023年からは日系企業に就職したい・就業している世界中の人へ向けたビジネス日本語のオンラインレッスンを展開。

留学生の就職支援業務の経験もあり、ビジネスマナーも含めたアドバイスを行えます。

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