企業が留学生の採用をふみとどまる理由の一つに、「仕事を覚えた途端に離職するのでないか」をあげています。2015年の経済産業省『外国人留学生の就職及び定着状況に関する報告書』によると、就職年は異なりますが約90%近くの回答者(元留学生)が「転職をしたことはない」と回答しています。しかし、日本以外で居住している回答者(元留学生)の約50%が「1年以上3年未満で日本を離れた」注)と回答があるので、これらの結果からは離職率は低いとも高いともとらえることができます。ディスコ、マイナビや三菱UFJリサート&コンサルティングが実施した外国人従業員(元留学生)の定着に関する調査等においても、離職理由は明らかになっているものの、離職率としての明確な数値はだしていません。
さて離職率はいったんおいて、日本で就職活動中に留学生がよく聞かれる「日本でどれくらい働くつもりなのか」の回答に、どんなホンネがあるのかを探っていきましょう。
「3、4年で辞めます」
一見、期限を区切ってキャリアプランを立てている風ですが、3、4年働けばスキルが身につくだろうと単なる自分勝手な思い込みのようです。それでは次はどうするのかと問えば、とりあえず期限だけを決めこんでいるノープランの人がいます。
「ずっと続けます」
企業はこの言葉を期待されていると同時に、ウソではないかと疑っていらっしゃるでしょう。確かに、日本の企業からとりあえず内定をもらうにはベストの回答という考えから、ウソをついている人もいます。しかし、日本の企業で定年、あるいは永住まで望んでいるホンネから発言した人もいます。
「わからない」
この発言だけを聞くと何も考えていない人のようにみえます。しかし、将来は何が起きるかわからない、言い切ることができないという発想から発言する人もいます。そのような発想をもっている人なら、「もし、この場合ならこうする」といろいろな選択肢を準備しています。
まとめ
「これからというときに辞めてしまう」ことを心配されますが、それは日本人学生と同じではないでしょうか。留学生は「ごくわずかな給与差で転職する人」ばかりではありません。また、転職したとしても別の理由からで、条件等を最優先にするわけではありません。
確かに、日本人従業員では考えられない理由で辞めざるをえないケースはあります。その点においては理解しておく必要があるでしょう。
<注釈>
特定活動で就職活動を継続したものの内定にいたらずに帰国した人(日本で就職しなかった人)が含まれると想定できることから、「1年未満で日本を離れた」の回答は合算していない。
<参考資料>
経済産業省『外国人留学生の就職及び定着状況に関する報告書』2015,経済産業省.
ディスコ『外国人留学生/高度外国人材の採用に関する企業調査(2018 年 12 月調査)』2019,株式会社ディスコ.
マイナビ『2019年卒マイナビ企業新卒内定状況調査』2019,株式会社マイナビ.
三菱UFJリサート&コンサルティング『留学生・高度外国人材の受け入れの実態と課題』2018,三菱UFJリサート&コンサルティング株式会社.